PLAY! #私らしく山を楽しむ

映画公開記念インタビュー

#岩を登る

FREE CLIMBING

決して、目の前の課題に立ち向かっていくことが本質ではない。
自分の心が求める挑戦を続け、
困難に直面してもユーモアを忘れず、
仲間との気持ちのつながりを大切にする。
それがクライマーの気質だとすれば、
クライミングは人生を豊かにするコツのひとつかもしれない。

クライミングガイド

Naoya Suzuki鈴木直也

今回はPLAY!の特別編として、ある映画に出演したクライマーに焦点をあててみよう。映画のタイトルは「ライフ・イズ・クライミング!」(2023年5月12日(金)より新宿武蔵野館ほか全国の映画館にて順次公開)。
 物語の中心人物は病気のために視力を失ったパラクライマー・小林幸一郎さんと、サイトガイドを務める鈴木直也さんだ。目が見えない人が壁を登る。このとき、次のホールドがどの方向にあり、どう攻めていくかを声で指示するのがサイトガイドの役目だ。小林さんは、2014年から2019年にかけて世界選手権B1(完全盲目)クラスで4連覇したトップクライマー。そして大会でペアを組んだ鈴木さんは10代で岩登りを知って以来、クライミング人生を歩み続けるクライミングガイドなのだ。
「ライフ・イズ・クライミング!」は、鈴木さんが小林さんを、とんでもない岩場に連れて行くことを軸にしたロードムービーだ。とんでもないというのは、目が見えていてもそこを登るには、特段の注意深さが求められる場所だからだ。果たしてこんなところを、目の見えない人が登れるのだろうか。けれど鈴木さんは言う。
「僕はね、あの岩が大好きなんですよ。そして自分が好きだ、と思ってる場所にコバちゃん(小林の愛称)を連れていきたい。一緒に行って、そこで彼がどういう感想を持つのか。それを考えただけでワクワクするんですよ」
 旅は鈴木さんがクライミングにハマったアメリカへ。そして2人にさまざまな影響を与えた人たちを訪ねながら、ユタ州の、ある岩山へとたどり着く。
 これはクライミングの映画ではない。障害者が困難を克服する映画でもない。クライミングがライフである人たちが繰り広げる、無邪気と情熱とフェアネスに溢れた、クライミングのようなライフの記録なのだ。

クライミングを
始めたきっかけ

「高校生の時に交換留学で2ヶ月アメリカに行ったんです。そのときアメリカのアウトドアカルチャーにショックを受けて、絶対ここに帰ってきたいと思いました。そこで高校卒業後はコロラド山岳大学という、山のことを学ぶ大学に進学しました。大学ではさまざまな山岳アクティビティを経験しましたが、その中でクライミングが本当に自分にハマったんです。いい岩場が大学の近くにたくさんある、っていう恵まれた環境だったこともあって、在学中はとにかくクライミングばっかりやっていましたね」

クライミングの
服装を教えてください

「僕が一番好きなのは、野外の岩に自分の力だけで登るフリークライミングっていう登り方なんですが、これは高さにしても15mくらい。スッと登ってスッとおりてくるので、登りながら雨や風に対応するっていうことはないんですよね。ですから短パンTシャツみたいなラフなものがほとんどです。屋内のジムで登るとしてもそんな感じじゃないでしょうか。特にジムなんかは天候の心配がないので、動きやすければOK。もう、自由に選んでもらっていいと思います」

クライミングをしていて
最高だと思うこと

「よく、クライミングは達成感が魅力だ、って言われますけど、僕は達成感もだけど岩場の雰囲気が好きなんですよ。知らない人とでも自然に言葉をかわして、ああだこうだ言いあってうちとける穏やかな空気感。時には知らない人とロープを結んで一緒にやる。その人がどこの誰かも知らない、生まれも職業も知らない。だけど、気づいたら友達になってる。この開放的でお互いを認めあってる、包容力に溢れたカルチャーが好きなんです。もしかしたら他のアクティビティにもあるのかもしれないけど、僕はそれをクライミングで知りました。以来ずっとクライマーって、クライミングって最高だなって思ってます」

視覚ガイドを
始めたいきさつ

「僕はクライミングジムを経営してるんですが、そこに趣味でクライミングをしている全盲の選手がいて、2010年に千葉で開催されたクライミングの国際大会に出場できることになったんです。それに向けてコーチ兼サイトガイドをお願いされて、よしやろう!って2人で頑張った、っていうのが最初ですね。サイトガイドについては独学です。声でガイドしているあいだ、僕は選手が動いていく方向、そこに出てくるホールドの指示を明確に、正確に出すことだけに集中しています。ほかに何も考えてないせいか、選手の動きにつられて自分も体を動かしちゃってることが多いですね」

クライミングで
1番気をつけなきゃ
いけないこと

「僕はアウトドアでのガイドをやってきたわけですけど、その経験を踏まえて言うとクライミングに限らず、やっぱり外遊びで重要なのはジャッジメント(判断)なんですよね。クライミングに行って、それこそ自分の体調や岩場の状況を観察して、登るか登らないかを判断する。厳しい状況のときに自分をプッシュするかしないか。そういうひとつひとつの判断が、安全や、行ってよかったっていう満足感につながると思っています。そして小さなジャッジを積み重ねて、総合的に何かを判断する。そのためには、細かなことをおろそかにしないってことが大事だと思います」

記憶に残っている
エピソード

「素晴らしくエピックだった、という意味では、僕のメンターと挑んだ’97年のコロラドです。サウスプラットっていうポイントにある4000m15ピッチくらいの1枚岩で、グレードとしてはそんなに高くないんです。が、とにかく危ない。一歩間違えると命を落とすような岩なんです。それに挑んだ日がすごい強風でした。でも、こいつとなら登れる、ってお互いに思えるからチャレンジしたんです。30年以上クライミングしてきて楽しいことはたくさんあるんですけど、心に残っているのはこういう自分の限界を押し上げた出来事ですよね。あの、やり遂げたときの満足感は忘れがたいし、今でも登りきったときの感動は鮮明に覚えていますね」

クライミングを
これから始める人へ

「これから始める、っていう人のほとんどはクライミングジムからスタートすると思うんです。クライミングジムって1回は行っても、なかなか2回目3回目と続かない、っていう人もいらっしゃいます。だからおすすめとしては、とにかく知り合いを作ることですね。同じようなレベルの人がいたら勇気を振り絞って、どのコース登ってるんですか、僕も一緒にやっていいですか、って話しかけてみる。そうすると続けるモチベーションも生まれてくるし、何よりもコミュニケーションっていう、クライミングの楽しさの本質にも触れることができると思います」

映画の見どころ
「最初、映画作ろうなんて思ってなかったんです。アメリカに僕が大好きな岩があって、そこにコバちゃんを連れていきたいってだけ。その旅の様子を撮ってるうちに、MILLETをはじめとしたそれぞれのスポンサーさんとか配給会社さんとか、みんなの力で映画になっていったんですよ。だからこの映画には台本がないし、決められたセリフもありません。込めたメッセージもありません。けど、そういう中で見てほしいところがあるとすれば、僕らが旅そのものを含めてクライミングも、人に会うことも、全部をものすごく楽しんだ、ってことでしょうか。その様子を通して、見てくれた人が明るい気持ちになって、これからなんかやってみたいって思ってもらえたら最高ですね。どうか、楽しんで見てください」 鈴木直也
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